みなさんの中には「全粒粉」という言葉を聞いたことがある方もいると思います。特に健康志向の方は、「全粒粉」入りの食品を購入したことがあるという方や、「全粒粉」を使って自分で料理を作ったことがあるという方もいるのではないでしょうか。
そんな「全粒粉」に、実は農薬が含まれているのではないかと問題になっています。そこでここでは、「全粒粉」の基礎知識から「残留農薬」の問題まで詳しくみていきます。
「全粒粉(ぜんりゅうふん)」とは、小麦の粒(表皮・胚芽を含める)をそのまま挽いた粉のことをいいます。小麦の粒には、表皮の中に胚乳(はいにゅう)と胚芽(はいが)と呼ばれる部分があります。一般的な小麦粉は、この表皮と胚芽を除いた胚乳の部分だけを粉状にして作るため、粉の色が白いです。
一方で、全粒粉は表皮や胚芽を含めて粉状にするため、色は茶褐色になります。さらに違いは色だけではなく、全粒粉の方がにおいが香ばしく、食感に歯ごたえもあります。また、全粒粉はその栄養価についても注目されています。
小麦の表皮には、食物繊維が豊富に含まれています。その他にも、マグネシウムや鉄分、ミネラル、亜鉛などが通常の小麦より多く含まれていることが分かっています。このことから、全粒粉が健康にいい食品だと話題になりました。
全粒粉を使用した食品には、パン以外にもパスタやクッキー、スコーンなどがあり、小麦粉の代用として全粒粉が使われています。
「全粒粉パン」とは、その名の通り全粒粉を使用して作ったパンのことをいいます。通常は、小麦粉で作るところを、そのすべてまたは一部を全粒粉にかえて作ります。全粒粉パンは市販で購入することもできますし、全粒粉を購入すれば自分で作ることも可能です。
市販のものは一部を全粒粉にしているものも多いので、100%全粒粉を使用したパンを作りたいという方には、手作りがおすすめです。ネット上にもレシピがたくさん掲載されているので、自分好みの全粒粉パンを作ることができます。
「残留農薬」とは、食品中に残留する農薬のことをいいます。厚生労働省では、人の健康に害を及ぼすことのないように、食品ごとに残留基準を定めています。もし、食品が残留基準を超えていたら、その食品は販売や輸入をすることができません。
残留基準については、人が「長期間にわたり農薬が残留する食品を摂取した場合」と「短期間かつ大量に、農薬が高濃度に残留する食品を摂取した場合」が設定されていて、販売・輸入されている食品はそのどちらであっても人の健康に害を及ぼすことがないと確認されています。
残留農薬の検査については、自治体や国が検査を行っています。
国内で流通されている食品の場合は、自治体が流通している食品を持ち帰り検査を行います。輸入食品の場合は、輸入の際に検疫所へ届けて、モニタリング検査を行うことになります。もし違反が確認されたら、検査の頻度を高めたり、輸入するたびに検査するなど厳しい対応が行われることになります。
また、違反があった食品については、廃棄や原因究明、再発防止の指導などの措置を行います。
2019年に食パンからグリホサートという化学物質が検出されました。この物質は農業などで使用される除草剤の多くに含まれているもので、植物に散布するとその植物は枯死します。日本に限らずアメリカなどの他国でも使用されています。
国際がん研究機関は、この物質について発がん性が認められる可能性があると指摘していますが、実験などを実施したわけではありません。また、2016年には世界保健機構と世界農業機関がグリホサートに発がん性がないことを発表しました。
食パンからこの物質が検出された原因は、日本が小麦の多くを輸入に頼っていることが挙げられます。2017年の日本の小麦の食料自給率は約14%となっていて、国内で流通している小麦のほとんどが輸入品に頼っていることになります。
そして外国で生産された小麦の多くには、プレハーベスト処理というものが行われています。このプレハーベスト処理というのは、作物の収穫目前に除草剤を散布することをいいます。作物を枯らすことで機械での収穫をしやすくする目的があります。
外国では、広大な面積で作物を育てているので、作物を収穫するにも時間や労力がかかるため、プレハーベスト処理を行うことで収穫作業の効率化をはかっています。このプレハーベスト処理が収穫目前に行われていることと、全粒粉との関係が指摘されています。
収穫目前に行うということは、その農薬が雨や風によって地面へ落ちる頻度が減り、物質を分解するための時間も少なくなるということが考えられます。
そうなると作物の農薬残留量は多くなってしまいます。さらに、農薬は散布されるのものなので、作物の表面に薬が付着します。全粒粉は小麦の表皮も一緒に粉状にすることが一つの特徴です。小麦の粒の表皮に農薬が残留し、化学物質であるグリホサートが検出されたということになります。
全粒粉は小麦の表皮を一緒に粉状にすることで他にはない栄養価を取り入れることができますが、同じく表皮を粉状にすることによってそこに付着した農薬(化学物質)も一緒に取り入れてしまうことになります。
全粒粉パンや全粒粉を使用した食品については、食べても問題はないと考えられます。プレハーベスト処理は多くの外国で行われていて、各国が発がん性がないことを報告しています。
また、外国では日本より農地面積が広大な分、それを維持していくにはどうしても効率性は無視できません。特に日本は小麦について輸入に頼っている部分が多いので、プレハーベスト処理については理解を深める必要があります。
しかし、これは人それぞれの考え方であり、個人差があります。日本国内で生産している小麦の中には無農薬で作られているものもあります。農薬や化学物質の影響が懸念される場合には、こういった国内産の無農薬で栽培した小麦を食べるといいでしょう。
国内産を食べることで国内自給率を上げることにもつながります。一概にどちらが良くてどちらが悪いというものではないので、もし全粒粉を使用した食品を摂取したいと考えている方で、残留農薬が不安だという方は、国内生産の無農薬で栽培された小麦を使用した全粒粉をおすすめします。
全粒粉は小麦の表皮を一緒に粉状にするため、高い栄養価を摂取できる反面、表皮に付着した化学物質も摂取することになってしまいます。この物質が人体へどれほどの影響を与えるものなのか、その食品を摂取する側の私たちは調べるとともに、自ら摂取していいものなのか判断する必要があります。
これは食品全般にいえることで、私たちがどのように判断するかによって、少なからず今後の日本の農業にも影響することが考えられます。
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